「運命の歯車が狂う」,「組織の歯車になる」,「あの人とは歯車がかみ合わない」など,歯車に関する慣用句は数多い.機械要素の中でも,それだけ私たちの生活に広く深く溶け込んでいる証拠だろう.歯車は機械要素として非常に重要な役割を担っており,幅広い分野で使われている. しかし,いざ歯車の加工について学ぼうとすると,現場の実戦に適した解説書がなかなかないのが実情である.ごく初心者向けの本は出回っているが,その上はいきなり難解な専門書になってしまう.そこには思わず腰が引けてしまいそうな理論や数式が並んでいる.歯切となるとさらに特殊な領域になるので,敷居が高いという人が多いはずである. この本ではもっとも身近な存在であるインボリュート歯車に的を絞った.初級を卒業して中級を目指す3 年目程度の読者に向け,基礎的な理論と加工のポイントをあくまで現場の目線にこだわって解説した.特に若かった当時の筆者が,わからなくて苦労したことに重点を置いた.その道をきわめた専門家諸氏の目には稚拙に映ったとしても,工作機械メーカーでも歯切工具メーカーでもない一介の現場技術者が,この本をまとめる意義はそこにあると考えている. 実戦に長けていても,正しい理論が身についていなければ独りよがりになって応用が利かない.逆に理論だけの頭でっかちでは,現場で通用しない.理屈と実戦が伴っていなければ,手も足も出ないのである.そのためには切削の病理学を身につけ,臨床経験を積んでそれをみがく以外に方法はない. 技術者がもっとも大事にするべきことは「現場的なことは理論的に,理論的なことは現場的に」という平衡感覚である.それを意識して動けば,ちょうどよい塩梅になる.そういうわけで,執筆にあたっては現場あるいは理論の一方にだけ肩入れすることがないように配慮した. ささやかな経験,豊富な文献,かなりの偏見によって何とか書きあげることができた.これから現場で歯車の製作に携わろうとする読者にとって,この本がわずかでも助けになり,仕事が面白くなるように祈りたい. [著者プロフィール] 石川 雅之 1956 年,東京都出身.早稲田大学理工学部機械工学科卒業. 荻野工業株式会社執行役員,株式会社広島機工社長を兼任中.精密工学会,自動車技術会会員. いすゞ自動車株式会社で生産技術(機械加工),切削工具技術,製造(機械加工・熱処理・組立),品質管理(パワートレイン系ユニット全般),品質保証(車両)の現場経験を積む.その後,株式会社タンガロイに移り,工具技術,マーケティングを担当. 切削加工をベースとする生産ラインの立上げを中心に,現場改善,販売戦略,人事評価システムなどのコンサルティングで国内・海外における豊富な経験を持つ.プレゼンテーション指導,社外講習会の講師としても,わかりやすく現場目線の指導で定評がある.次代のものづくりを担う学生の教育にも熱心で,各大学で教壇に立っている. 趣味は登山,スキー,カヤックなどのアウトドア全般.料理好きの一面があり,特に南米生活で身につけたシュハスコ(ブラジリアンバーベキュー)は,自動機を設計・自作するなどプロ級.
第1章 歯車概論 第2章 インボリュート歯車の基礎知識 第3章 インボリュート歯車の加工概論 第4章 ホブ切り 第5章 歯車形削り 第6章 シェービング 第7章 ブローチ加工